コラム : ネットショップのネーミング戦略〜SEOも商標権も
(1) 店舗名と商標権取得
ネットショップを開業するときに検討しなければならないのは、販売する商品の種類やその仕入れ先、ホームページのデザインなどとともに、店舗名(ショップ名)のネーミングだと思います。ネットショップにおいては、そのネーミングをどうするか(ネーミング戦略)は極めて大きい課題といえます。
ここではSOHO(注:a)など小規模事業でのネットショップに絞った店舗名のネーミングについて、商標権取得(商標登録)という観点を含めて検討したいと思います。
(2) 検索エンジンから見た店舗名の重要性
ネットショップにおいて、店舗名はそのホームページのタイトルなど多くの重要な箇所に頻出し、SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)の観点から見た場合、店舗名は、そのネットショップを示す最重要のキーワードと位置付けられます。このことは、ネットショップの特性から非常に重要であり、大規模ネットショップとSOHOネットショップではそのネーミング戦略が大きく変わってきます。
(3) 大規模ネットショップの場合
つまり店舗名は、そのホームページを検索するための最重要キーワードのひとつになります。このことは、ネットショップの特性から非常に重要であり、大規模事業のネットショップとSOHOでのネットショップではネーミング戦略が異なってくくることになります。
大規模なネットショップの場合、例えばテレビ広告打てるなど大規模なメディアミックス戦略(注:b)を行うことにより、他のメディアによってショップ名を知ってもらい、ネット検索でそのショップ名を入力して、そのネットショップに誘導することが可能です。このようなネットショップの場合のネーミング戦略は、覚えやすく、しかも間違いにくいオリジナリティの高いネーミングが有効です。
(4) SOHOネットショップの場合
一方、そのような広告戦略に莫大な費用を投じることができないSOHOの場合、そのショップ名自体が検索対象となるような単純明快な名前、例えばそのショップの商品、特に主力商品を表す言葉(フレーズ)が含まれていることが集客力アップのカギになります。例えば紅茶、なかでもちょっと珍しいネパールの紅茶をを主力商品とするネットショップであれば、『ネパール紅茶のおいしい店』などです。
(5) 商標法からみた店舗名
ところが、その店舗名について商標権を取得するという観点からは、SOHOのネーミング戦略とは全く反対のことが要求されます。つまり、紅茶専門のネットショップで、店舗名が『ネパール紅茶の店』である場合や、『おいしいネパール紅茶の店』など多少商品のPRフレーズ(商品の品質を表すような言葉)をつけたような店舗名では、商標権を得ることはほとんど不可能です。
ではこの矛盾をどのように解消すればよいのでしょうか?いくつか方法を考えてみましょう。
〔案1〕単純明快な名前とオリジナル性の高い言葉と組み合わせてオリジナル性の高い言葉のみについついて商標権を得る。
例えば『ネパール紅茶のおいしい店 ダンニャバード』(注:c)などとして、商標『ダンニャバード』について商標権を得る戦略です(注:e)。
この場合、サイトのタイトルに『ネパール紅茶』のフレーズが入るのでSEOの観点からも有利になり、将来的にそのサイトが有名になれば『ダンニャバード』の検索でお客様を誘引するという戦略です。
〔案2〕デザイン化したロゴを作成して、そのロゴで商標権を取得する。
『紅茶の店』のような単純明快な商品名でも高度に図案化すれば、商標権取得の可能性が上がります。SEOの観点からはタイトルには『紅茶の店』のフレーズが入り有利に働くとともに、ロゴにはalt属性で『紅茶の店』などを付与することでロゴがSEO的に不利な点をカバーできます。
〔案3〕商品名と関係ない言葉と結合させる。
例えば『紅茶森林』などのように商品と関係の薄い言葉と組み合わせた結合商標を店舗名として商標権を得る戦略です(注:e)。商標権の観点からは漢字なら同じ漢字同士、カタカナなら同じカタカナ同士、アルファベットなら同じアルファベット同士で、同じ文字の大きさを同じにして、結合部分に不要な空間を入れずに、フレーズとしても長すぎないなどの条件を満たす場合は、一連の言葉として認めてもらえる可能性が高くなります(注:d)。
一方、検索サイトはこのようなフレーズは勝手に『紅茶』と『森林』に分けてもキーフレーズ登録するようですのでSEO的に不利にはならないと思われます。
〔案4〕商標権取得の境界線ギリギリを狙う
さきほど、商品の名前は、多少PRフレーズを付けてもほとんど登録されないと書きましたが、特に今までに日本で売られたことがないような全く新しい商品を扱うような場合やPRフレーズでも今まで聞いたことがないような(ありふれていない)PRフレーズを商品名にくっつけた場合には、商標登録される場合があります。ただしこれはチャレンジングな商標出願として腹をくくって出願してください。保険として別のオリジナリティのある店舗名も併せて商標出願しておくことがよいでしょう。
しかし、このような商標権を取得できれば、その新商品の認知度や、その新しいフレーズの浸透度が高まるにつれて、SEO的にも価値の高い店舗名を独占して使用できる強い権利を持つことができます。
しかし、その「ギリギリの境界線」はいったいどこにあるのでしょうか?最近の商標出願の査定不服審判の結論をいくつか並べると、その境界線が見てくるかもしれません。これについては別のコラムで考察します。(後日掲載予定)
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[注釈]
a) SOHO:Small Office/Home Officeの略。一般には個人または小規模会社が自宅や小さな事務所で、コンピューターのネットネットワークを活用して事業を行うことをいいます。
b) メディアミックス戦略:テレビ広告、新聞広告など様々な媒体を使って広告を行って相乗効果を狙う戦略ですが、大規模事業者ためだけの戦略ではありません。ホームページを記載したチラシを近くのお店(実店舗)に置いてもらう、タウン誌などでホームページを記載した記事または広告を載せてもらうなど、SOHOでもできるメディアミックス戦略もたくさんあります。
c) 「ダンニャバード」とはネパールの言葉で、「ありがとう」の意味だそうです。
d) これを「同書、同体、等間隔であらわされた一体の造語」などと呼んだりします。
e) なお、ここでの例示は説明のための単なる思いつきなので、指定商品「紅茶」について商標『ダンニャバード』や『紅茶森林』が商標登録されることを保証するものではありません。
(2009年9月12日公開)